ボーン・ミュージック

Buy tickets

BONE MUSIC展パネルディスカッション

Event

Stephen Coates ボーン・ミュージックにまつわる社会的背景や、企画に込められた思いについてパネルディスカッション形式で紹介する、一夜限りのスペシャル・イベント【BONE MUSIC~パネルディスカッション】が5月2日(木)、本展の会場である東京・原宿のBA-TSU ART GALLERYで開催された。

登壇者は、本展のキュレーターを務めるスティーヴン・コーツと、ブロードキャスターのピーター・バラカン、そしてDJのLicaxxxという3人。応募抽選・無料完全招待制により集まった数十名の観客が見守る中、「我々の人生において、いかに音楽が大切なものか」という本展の根底にあるメッセージを、様々な角度から多角的に紐解く刺激的な内容となった。

「まずは目を閉じ、みなさんにとって最も大切な曲を一つ思い浮かべてください」

開口一番、そう観客に呼びかけるコーツ。「ある日、あなたのもとに警察がやってきて、『その曲を聴くのは違法だから、すぐに没収します。拒否すれば逮捕します』と言われたら、みなさんはどうするでしょう。そもそも、そんなことが想像できますか?」そう、本展はまさにそんなことが起こり得た、今とは全く違う時代を紹介するものである。

冷戦時代のソ連では、ロックやジャズ、一部の民族音楽などを聴くことが法律で禁止されており、要らなくなったレントゲン写真に音楽を記録し、隠れて楽しんでいた人たちがいた。例えば、ルドルフ・フックスもその一人。ブートレグのレコードを密かに制作した罪により、収容所に収監されたこともある彼は、当局から「国民の魂を盗む男」とまで言われていた。

Event

今日のパネルディスカッションはまず、フックスの証言映像を流した後で「検閲」をテーマに議論を開始。「音楽は『検閲されるべきものではない』と思いますか? それとも『ものによっては検閲されるべき』と思いますか?」と、のっけから難問を提示するコーツに、会場からはうなり声が漏れた。

「たいへん難しい問題です」とバラカン。「例えば僕は、自分の番組内でヘイトスピーチが含まれる楽曲をかけることは、まずありません。ただし、そうした判断をするのは、番組を作る人間一人一人であるべきで、放送局あるいは政府が『この曲はかけてはいけない』などと命ずるのは、個人の自由を奪う危険な行為だと思います」

さらにコーツは具体例を挙げ、このテーマを掘り下げていく。例えばメキシコでは、実在の麻薬組織のボスらを英雄視する内容の楽曲「ナルコ・コリード(麻薬密売人のバラッド)」が「反社会的すぎる」一方で若者たちの間で話題となった。「こうした不快な表現を持つ音楽に対しては、日本でも規制をかけるべきか?」とコーツは問いかける。

それに対しLicaxxxは「まだ判断力のない小さな子供に聴かせるのは問題ですが、物事には全て良い面と悪い面があることを教えるのは、大切なことだとも思います」と答え、バラカンも同意した。「例えばその曲にまつわる背景について、解説付きで流すのは“あり”かも知れない。たとえ規制したところで、昔のソ連の人たちと同じように、欲しい人たちは何とか手に入れる術を身につける。特に今はインターネットの時代で、禁止しようと思っても禁止できないでしょうしね」

続いてコーツは、日本国内における規制事情について「どんな音楽が受け入れられないのか」を2人に尋ねた。それに対しバラカンは「日本で放送するかしないかの判断材料になるのは、ほとんどの場合が歌詞の内容」と指摘。

Event

「しかも規制は国が行うものではなく、大抵は局やパーソナリティーによる『自主規制』です。ミュージシャン側も、それを知った上でレコードを作るようになっている。少しでも自分たちの曲をかけて欲しいと思ったら、規制がかかりそうな表現は最初から避けるわけですね。そういった環境に日本人は慣れきってしまって、もはや疑問すら感じなくなっているのかも知れません。僕はロンドンから移住してきた人間なので、最初はものすごく不思議に思いました。が、45年も暮らしているうちに慣れてしまいましたね(笑)。ただ、この自主規制などによる“重苦しい空気”を、なんとか打破できないか?とは今も時々思います」

では、音楽には社会を変える力があるのだろうか。コーツは言う。「それこそソ連では、音楽を通して社会が変わっていくことを恐れたからこそ厳しい取り締まりを行っていた。同時に、音楽を利用し若い人たちに思想を広めようともしたわけです」

それを受けバラカンは、「もし1969年に同じ質問をされたら、僕は『Yes』と答えたかも知れない。それは甘い考えだったことは、最近は分かってきたけれど」と述べた。「ただ、例えばマリの女性シンガー、ウム・サンガレは20数年前に『社会における女性の地位向上』をテーマにした曲を歌い、大きな議論が起きたことにより人々の価値観に変化が起きていきました。音楽の力で社会を変えるのは難しくても、音楽によって自分の人生が変わった人は何人もいる。僕もその一人です。個人レベルで人生を変えられるのなら、間接的に社会を変える力が音楽にはあるのではないでしょうか」

最後にコーツは、「音楽はあなたにとって『it matters(大切なもの)』か、それとも『entertainment(娯楽)』か?」と質問を投げかけた。

Event

「私にとって音楽は、人生の半分以上を占める重要なものです」とLicaxxx。「『生きるために音楽が必要か?』と問われれば、生命活動という意味では必要ではないのかも知れない。でも、ご飯も食べられない、寝ることもできないという状態で、何が救いになるのか?と聞かれた時に『音楽』と答える人もいると思うんです。『仕事で毎日ヘトヘトだけど、とりあえず今夜は8時間ぶっ続けで踊っておくか!』という人だって、きっといる(笑)。体力が限界でも、音楽が支えとなってギリギリ精神のバランスを保っていけるというか。そう思うと、やっぱり音楽は『it matters』だなと。少なくとも私自身にとっては大切なものです」

バラカンは深く頷いたあと、コーツの最初の質問を引き合いに出してこう話した。

「もし今日の帰り道、いきなり警察に呼び止められて音楽を取り上げられたとしたら、その音楽をもう一度手に入れるために、あらゆる手段を講じるかもしれないな」

「もしそうなったら、私は海外に逃げるかも」とLicaxxxは笑う。「で、世界中どこへ行っても違法ということになったら、そうだなあ……ジャングルかどこか、誰にも見つからないところへ行って、自分でこっそり音楽を作るかな」

その後、観客との質疑応答が行われ、「音楽への『情熱』に関する地域性や国民性の違いについて」など、興味深い議論がなされてパネルディスカッションは盛況のうちに終了した。

ボーン・ミュージックという、冷戦時代に存在したアンダーグランド・カルチャーを通じて、時おりユーモアを交えながら「自由とは何か?」、「社会はどうあるべきか?」など、現在の私たちが抱える課題にまで思考実験が繰り広げられる、非常に有意義な90分間だった。

TEXT:黒田 隆憲

Stephen Coates

スティーヴン・コーツ (本展キュレーター)

作曲家兼音楽プロデューサー。ロンドン/ロイヤル・カレッジ・オブ・アート卒業後、音楽とカルチャーの組み合わせに強い興味を持ち、2010年、レゾナンスFM(ロンドン)で、「宣伝と冷戦の音」という8部構成のラジオドキュメンタリーシリーズを書き、西洋とソビエトでの”音楽とオーディオ”が政治的目的に使用された歴史を調査。その後、6年間に渡り、音楽パフォーマンスを続けるなか、ロシアへの旅行中にボーン・レコードのストーリーに出会ったことを機に本展覧会のキュレーションを担当。
Peter Barakan

ピーター・バラカン (ブロードキャスター)

1951年ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。現在フリーのブロードキャスターとして活動、「バラカン・ビート」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(東京FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)などを担当。著書に『ロックの英詞を読む〜世界を変える歌』(集英社インターナショナル)、『ラジオのこちら側』(岩波新書)『わが青春のサウンドトラック』(光文社文庫)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ぼくが愛するロック 名盤240』(講談社+α文庫)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『猿はマンキ、お金はマ ニ』(NHK出版)などがある。2014年から小規模の都市型音楽フェスティヴァルLive Magicのキュレイターを務める。 ウェブサイト
http://peterbarakan.net
Licaxxx

Licaxxx (DJ)

東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー、編集者、ラジオパーソナリティ。2010年にDJをスタート。マシーンテクノ・ハウスを基調にしながら、ユースカルチャーの影響を感じさせるテンションを操り、大胆にフロアをまとめ上げる。2016年にBoiler Room Tokyoに出演した際の動画は40万回近く再生されており、Fuji Rockなど多数の日本国内の大型音楽フェスや、CIRCOLOCOなどヨーロッパを代表するクラブイベントに出演。日本国内ではPeggy Gou、Randomer、Mall Grab、DJ HAUS、Anthony Naples、Max Greaf、Lapaluxらの来日をサポートし、共演している。さらに、NTS RadioやRince Franceなどのローカルなラジオにミックスを提供するなど幅広い活動を行っている。さらにジャイルス・ピーターソンにインスパイアされたビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」の主催。若い才能に焦点を当て、日本のローカルDJのレギュラー放送に加え、東京を訪れた世界中のローカルDJとの交流の場を目指している。また、アンビエントを基本としたファッションショーの音楽などを多数制作しており、Chika Kisadaのミラノコレクションや、dressedundressdの東京コレクションに使用された。
https://www.instagram.com/licaxxx1/